食物アレルギーと食物経口負荷試験

•食物アレルギーの患者さんは、食品成分表の確認、代替食品の利用、保育園や学校への書類の提出など、対応が必要なことがたくさんあります。 好き嫌いで、ある特定の食物を食べないことと、生死に関わるアレルギー反応で食べられないこととは全く異なります。
•食物アレルギーにはいろいろなタイプがあります。ひとつめは、原因となる食物を摂取してから2時間以内に症状が出る即時型食物アレルギーです。じんましん、かゆみ、下痢、嘔吐、せき、声がれなど全身の様々な部分にみられます。複数の臓器に重篤な症状が現れ、命に関わりうるアレルギー症状をアナフィラキシーと呼び、さらに血圧低下や意識障害などを伴う場合をアナフィラキシーショックといいます。
•じんましんやかゆみなど皮膚の症状は9割の方に見られますが、重症度が高くて危険な症状は、声がれ、ゼイゼイする呼吸、繰り返す嘔吐です。食物摂取直後から2時間程度までの間に、これらの症状が出てきたら、速やかに救急車を呼んでください。アドレナリン自己注射薬(エピペン®)は早期の使用で効果が得られやすいので、処方されている場合はためらわず使用してください。
•2つめは、花粉食物アレルギー症候群で、花粉に対するIgE抗体を持つ人に起こります。花粉症がある患者さんでみられ、果物や野菜に含まれる花粉と似たたんぱく質を新たなアレルゲンとして認識することで、果物などを食べた後に、主に口の中や耳のかゆみなどの症状が出ます。
•3つめは、食物依存性運動誘発アナフィラキシーで、頻度は少ないものの、原因となる食物を食べた後に運動をすることによってアレルギー反応や、時にアナフィラキシーを起こします。
食物アレルギーの原因となる食べ物は人によって違います。乳児期は鶏卵、乳製品、小麦が多く、幼児期になると、魚卵、木の実類、学童期以降では果物類、エビ、カニなどの甲殻類が多くなります。2020年の消費者庁の全国調査の結果では、2005年の調査開始以降初めて、原因食物として、卵、牛乳に次いで3番目に木の実類がランクインしました(外部リンク令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書)。

私たちの体には、有害な細菌やウイルスなどの病原体から体を守る「免疫」という働きがあります。「アレルギー」は、この「免疫」が本来無害なはずの食べ物に対して過敏に反応してしまうようになった状態のことをいいます。(下図 外部リンク ん息予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック2021改訂版 より引用)

食物に対してIgE抗体ができる場合、口から食べて消化吸収された食物ではなく、湿疹のある皮膚などから侵入したアレルゲン、食物などが原因となることがわかってきました。IgE抗体は、全身の皮膚や粘膜に存在する、マスト細胞と呼ばれる細胞の表面にくっつきます。この状態を感作とよびますが、感作されただけではアレルギー反応は起こりません。再びたとえば牛乳などがアレルゲンとして体の中に入り、IgE抗体と反応するとマスト細胞などからヒスタミンなどが放出され、アレルギー症状を起こします。下図 外部リンク ぜん息予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック2021改訂版 より引用)

食物アレルギーの経過は、原因となる食物により異なりますが、低年齢で発症した場合は、年齢とともに自然に治っていく傾向があります。学童期以降、成人になってから発症する食物アレルギーは、自然に治ることは少ないといえます。
•食物アレルギーが疑われる場合、当院では、アレルギーの原因となる食べ物を特定するための検査を行います。一番大切なのは問診で、食べたものや量、食べてから症状が出るまでの時間などを確認します。ただし、食物摂取後、じんましんや下痢などの症状が出た場合、必ずしも食物アレルギーが原因ではないことに注意が必要です。食物アレルギーが疑われる食材が決まれば、血液検査や皮膚テストなどを行います。

食物経口負荷試験について 当院は小児食物アレルギー負荷検査の認定施設です
●当院では除去を必要最低限とし、早期に食べられるようにするために食事指導に加え、食物経口負荷試験を行います。これは、食品を数回にわけて食べ、症状が出るかどうかを数時間かけてみる検査です
●食物アレルギーの治療の基本は原因食物の除去ですが、食物除去に対する考え方が、「疑わしきは除去する」から「必要最小限の除去」へと、この10年で大きく変わりました。食べると本当に症状が出るものだけを除去し、原因食物であっても「食べられる範囲」は食べるようにします。
わが国では食物アレルギーのお子さんは乳児で約10%、幼児で約5%、学童期以降が1.5~3%くらいです。乳児・幼児期の鶏卵、乳製品、小麦に対する食物アレルギーは、3歳までに5割、6歳までに8~9割の方が自然に食べられるようになっていきます。
●食物アレルギーの治療を行うためには原因食品の正確な診断が必要です。 食物経口負荷試験はこれに大きく貢献しています。医療機関で、食物アレルギーとの関与が疑われる食品を1~数回に分けて食べ、症状が現れるかどうかを数時間かけて調べる検査です。
●検査の目的は、原因食品の決定や、一定期間除去をしてきた食品を食べられるかどうかの判断をすること、入園・入学などに際し、本当に食べられないのか、どのくらいの量なら食べられるのか、重い症状が出るかなどの再評価を行うことです。食物アレルギーがある場合でも、摂取できる食品の量を明らかにし、食生活に取り入れることができる場合もあります。
●大切なことは、 血液検査や皮膚テストで陽性でも、食べて症状が出なければ食物アレルギーではないということです。乳児期に発症したアトピー性皮膚炎への食物の関与が見逃されて皮膚症状が良くならない場合もありますが、乳幼児期からの食物除去が再評価されることなく続いている場合もあります。
●食物経口負荷試験を行うまでの流れとして、まずは年齢、病歴(どのような症状がいつどのような状況であったのか)、アレルギー検査結果を参考にして、食物負荷試験を行う適応があるかどうかを相談します。 年齢や症状の重篤度などを考慮します。誘発された症状に対しては、重症度に応じて、抗ヒスタミン薬の内服や静注、気管支拡張薬の吸入、アドレナリンの筋注などの処置を速やかに行います。
•2022年4月より16歳未満のお子さんは年3回まで、保険診療で食物経口負荷試験を行えるようになりました。
•次のようなご心配がありま したらお気軽にご相談下さい。
〇赤ちゃんの湿疹がひどくて、食物アレルギーが心配。
〇入園・入学に際して、本当に食べられないのか知りたい。
〇どのくらいの量なら食べられるのか知りたい。
〇食べて症状が出るなら、緊急時のくすりがほしい。

食物経口負荷試験当日のながれ
•朝9時ころに自宅から持ってきていただいた食品を摂取、次いで量を増やして摂取し、摂食可能かどうかを判断します。
•帰宅可能な時間は、11時半以降です。(夕方までかかることもあります。)
•くわしくは受付のパンフレットをご参照ください。
•負荷試験につきましては当科受診時、医師にご相談ください。


鶏卵アレルギーの食物経口負荷試験時の鶏卵パウダー(たまこな®)外部リンク使用について
乳幼児の食物アレルギーの原因食品として最も多いのが鶏卵です。
当院で負荷試験を行う際、鶏卵パウダーを用いております。臨床研究の段階から当院も協力施設として関わり(外部リンク)、これまでもたくさんのお子さんで安全に検査を終えてきました。
鶏卵パウダーを使用する利点として、おうちの方が負荷試験食を準備する必要がない、卵そのものの見た目に拒否反応を起こすお子さんでも摂取してもらいやすいということがあります。
おうちの方の費用負担は一切ありません。

ぜん息予防のためのよくわかる食物アレルギー対応ガイドブック2021改訂版